別海町の忠犬チロ:主人を待ち続けた2日間
別海町で行われた殖民軌道フォーラムにて、奥行臼駅逓所のガイド加藤さんが話してくださったお話を昔話風に載せさせていただきました。
別海町の上風連に、一匹の賢い雌犬「チロ」が暮らしていました。白、茶色、黒の美しい毛並みと知的な瞳を持つ彼女は、何よりも飼い主を愛し、彼のためなら何でもする忠実な犬でした。
チロの飼い主は、酪農で家族を支える勤勉な父親。彼はときどき西別(町の中心部)まで簡易軌道で用事を済ませに行き、そのたびにチロは停留所までの道を、主人のバイクの横を軽やかに走り抜け、時には先回りするほど元気いっぱいに付き添いました。
停留所での別れ
ある日、主人は友人を訪ねに西別へ行くことになり、いつものようにチロを連れて停留所まで来ました。木にバイクを立てかけた主人は、チロの頭を撫でながら優しく言いました。
「すぐに戻るから、ここで待っているんだぞ。」
しかし、その日、主人は旧友との再会を楽しみ、西別での用事を済ますうちについ二日間も外泊してしまったのです。
チロの長い待ち時間
主人がいない間、チロは停留所のバイクのそばから一歩も動かず、汽車が来るたびに乗客の顔を一心に見つめ、主人の姿を探しました。夜になると冷たい風が毛を吹き抜け、彼女は身を小さく丸めて寒さを耐えました。通りかかった人たちが「どうしたんだい、チロ?お家に帰らないのかい?」と心配して声をかけましたが、チロはじっと主人を待ち続けました。
彼女は、誰が近づいてもバイクから離れず、まるで「これは主人のものだ」と言うように、小さく唸って警戒します。それは威嚇ではなく、主人への愛と忠誠心から生まれた警告でした。
ついに訪れる再会
二日目の朝、ようやく汽車が停留所に到着しました。バイクに向かって歩いてくる主人の姿を見つけた瞬間、チロは疲れ切った体を震わせながら立ち上がり、主人のもとへ駆け寄りました。
「チロ、お前、ずっとここで待っていたのか?」
主人は駆け寄り、寒さと孤独に耐えた彼女を力強く抱きしめます。
付近の人々から、チロが二日間水も飲まず、ずっとバイクのそばで主人を待ち続けていたと聞いた主人は、胸が締めつけられるような思いでした。
「すまなかった、チロ。こんな思いをさせて、本当にすまない。」
チロは小さく「ワン」と吠え、それはまるで「大丈夫だよ、無事に戻ってきてくれたからそれでいい」というような優しい返事でした。
忠犬チロが教えてくれたもの
それ以来、主人は二度とチロを一人にして外泊することはありませんでした。彼女がどれほど自分を慕い、どれほど大切に思っているかを知ったからこそ、ひとりぼっちにさせたくないと強く感じたのでしょう。チロの物語は付近の語り草となり、今も別海町の人々の心に生き続けています。
彼女の姿は、「本当の愛とは何か」「信じ続けることの大切さ」を静かに教えてくれるものでした。奥行臼駅逓所にて長年ガイドをされている加藤さんの実体験を令和6年度の殖民軌道フォーラムでお聞きし、今回文章に起こしました。チロが示した愛と忠誠の物語は、寒さと孤独の中でも決して消えることのない希望の灯火として、別海町に今も残っています。
別海町地域おこし協力隊 文化財活用担当 大谷
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