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アザラシたちと未来をつむぐ:観光と漁業

別海町の広大な海岸線、野付半島の厳しくも美しい風景の中で暮らすアザラシたち。彼らは、まるでこの地の守り神のように静かに、しかし確かに私たちの前にその存在を示しています。
アザラシたちをただの観光資源として見るのではなく、未来に受け継ぐべき「自然文化財」としての捉え方ができる反面、漁場を荒らす害獣としての側面があり、その共存のあり方が注目されています。

アザラシの生息地—自然遺産としての価値

別海町には、野付半島や風蓮湖といった貴重な生態系を有する場所が点在しています。野付半島は、「砂嘴(さし)」と呼ばれる特異な地形が広がり、季節ごとにその姿を変えることで知られています。干潟や湿地が潮の満ち引きによって形を変え、冬には流氷が押し寄せるこの地域は、多くの野生動物たちの安住の地です。
特に野付半島では、ゴマフアザラシやクラカケアザラシがその姿を見せ、アマモの中で昼寝をしたり、魚を追いかけたりする光景が見られます。観光客は彼らを一目見ようと観光船に乗り、その愛らしい姿に心を奪われることでしょう。しかし、アザラシたちは単なる観光の対象ではありません。彼らがこの場所に定着し続けることは、地域の生態系が健全に保たれていることの証であり、私たちが未来に受け継ぐべき自然の遺産なのです。

文化財としての視点—アザラシたちの役割

文化財といえば、寺院や伝統的な建築物が思い浮かぶかもしれません。しかし、別海町においてアザラシたちは海の自然環境の象徴で、地域の生活と文化に深く根ざした存在です。その毛皮は特にサハリンやオホーツク海側の地域で服や靴として使われ、肉や脂も食料として利用されました。時にアイヌ文化ではアザラシを「アトゥイクンカムイ」と呼び、海の守り神とされ、その行動は海の状態や天候を予測するための指標として用いたこともあるそうです。この土地で暮らす人々にとって、彼らは「共に生きる仲間」であり、自然界の知恵を教えてくれる存在だったのです。
こうした伝統的な知恵や慣習が今も残り、アザラシたちの存在が単なる「動物」としてではなく、「文化財」としての価値を持つことを意味しています。文化財として捉えることで、彼らの生息環境全体を未来に残すための保護活動がより一層重要視され、地域全体で環境保護の意識が高まっているのです。

アザラシによる漁業被害の実態

これらのアザラシは、魚類を主食とするため、漁師さんたちにとっては時に「目の敵」とされることもあります。特に、別海町周辺の漁業では、アザラシによる漁具の破損や魚類資源の捕食被害が大きな問題となっています。
アザラシは非常に知能が高く、一度餌場を見つけるとその場所を記憶し、同じ場所に繰り返し現れます。漁師たちが網を仕掛けると、その網の中に魚がたくさん入っているのを見て、アザラシたちは網を破って魚を奪ってしまいます。この結果、網が破れただけでなく、魚も逃げてしまい、漁獲量の減少や漁具の修繕費がかさむなど、漁業者にとって大きな負担となります。

どのような被害が発生しているのか?

具体的な被害の内容は以下の通りです。
網の破損:アザラシは鋭い歯を使い、漁網を噛み切って魚を奪うため、漁具の修理費が増大します。
魚の捕食:漁網に入った魚を大量に捕食するため、漁獲量が減少し、地元経済に悪影響を与えます。特にサケやタラなど、重要な水産資源が狙われやすいです。
漁場への定着:一度アザラシが漁場を学習すると、毎年同じ場所に定着し、被害が繰り返される傾向があります。

別海町が進める取り組み

別海町では、自然の生態系を守るための保護活動が行われています。例えば野付半島では、観光客による環境への負荷を減らすため、「野付半島での5つの約束」と題した観光ルールや、生き物たちが安心して暮らせる環境保護の啓発などを行っています。また、地元の学校や住民を対象にした自然教育プログラムでは、野生生物の生態や彼らを取り巻く環境について学び、自然の価値を再認識する機会を提供しています。
こうした取り組みの中で特に注目されるのが、「アザラシウォッチングツアー」の推進です。このツアーでは、アザラシたちを遠くから観察し、その自然な行動を尊重することを心がけています。収益の一部は調査活動に充てられ、観光と自然保護の両立を目指す新しい地域活性化の形を作り出しています。

アザラシが伝える「自然との共生」のメッセージ

アザラシたちは、厳しい冬の別海町を生き抜く逞しさと、その中で見せる愛らしい表情で訪れる人々の心を癒してくれます。彼らがこの地で生き続けることは、私たちに「自然との共生」というメッセージを送り続けているように感じられます。気候変動や環境破壊の脅威が増す中で、彼らの存在が教えてくれるのは「自然環境を守ることの重要性」そして「未来の世代へ受け継ぐべき自然遺産としての価値」です。
野付半島の美しい景観と、その中で生きるアザラシたちの姿は、ただ目を楽しませるだけではありません。彼らを守り、未来に残すために私たちが何をすべきかを問いかける、自然からのメッセージでもあるのです。

未来に向けて紡ぐ物語

別海町の雄大な自然と共に生きるアザラシたちの姿を見たとき、人々は自然の力とその尊さに心を打たれます。そして、彼らの物語が次の世代にも語り継がれ、未来の別海町においてもアザラシたちが氷上で微笑む姿が見られることを願ってやみません。それと同時に、別海ならではの鮭漁やホッカイシマエビ漁もかつてのような大漁になることも同時に願うばかりです。観光と漁業が両立できるアザラシへの向き合い方を今後模索していけるといいですね。
アザラシと共に紡ぐ未来、それは自然と人々の調和が生み出す新しい文化財として、これからも別海町で育まれていくでしょう。

別海町地域おこし協力隊 文化財活用担当 大谷

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