別海町の周辺で見かけるキタキツネは、その愛らしく美しい姿から人々に愛されていますが、彼らの成長過程にはいくつもの厳しい現実が潜んでいます。

その一つが「子別れ」の瞬間です。
親ギツネが子ギツネを自立させるために行うこの儀式は、キタキツネの一生の中でも特に印象的な出来事であり、野生に生きるものの厳しさを感じさせます。

春から夏にかけての季節、母ギツネは数カ月の間、生まれた子ギツネたちと共に行動し、狩りや生きるための技術を教えます。
まだ幼い子ギツネたちは母親の後をついてまわり、森や草原の中で遊びながら獲物の獲り方を学んでいきます。
彼らにとって母親は唯一の頼りであり、すべてを教えてくれる存在です。
母ギツネもまた自分の役割を果たし、子供たちを見守りながら次のステップへの準備を進めます。

そして、ついに決定的な時が訪れます。
それまで優しかった母親が突然、躾の甘噛みやジャレ合いでなく本気で噛みつき子供を追い出しにかかるのです。
まだ甘えたい子ギツネたちは混乱しますが、厳しく拒絶する親から渋々離れて自立していきます。
この「子別れ」は親ギツネが自分の餌を確保するためと近親交配を避けるため、また子供を独り立ちさせるためにとる行動であると言われています。

子ギツネたちは一人前になるために母親という支えを失い、数ヶ月のわずかな経験を元手に、初めて本当の意味で自分の力で生きることを強いられます。

この過程は子供たちにとっても母親にとっても厳しいものですが、それこそが生命の循環を保つための自然の摂理なのです。
北海道の過酷な自然環境の中で生き抜くため、彼らがこの厳しい試練を乗り越えることによって、次の世代へと命をつないでいくのです。

文化財活用担当  大谷