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急速に減少するミヤマカラスアゲハ、急増するエゾシカとのまさかの共通点

写真は、別海町内で撮影した美しい蝶「ミヤマカラスアゲハ」です。
その鮮やかな青と緑の翅(はね)で多くの人を魅了するこの蝶が全国的に減少していることをご存知でしょうか?
2008年から2017年で1年あたりの減少率が30%を超える地域が出てきており、環境省のレッドリストでは地域により「準絶滅危惧種」として位置づけられています。

一方で、北海道ではエゾシカが増加し、自然環境に大きな影響を与えているという興味深い現象が起きています。
この二つの生物がどのように関係しているのか、少し掘り下げてみましょう。
2023年の時点で北海道に生息するエゾシカの推定数はおよそ73万頭とされています。
1990年代には約3万頭程度だったことを考えると、30年あまりで約20倍にも増加しているのです。

エゾシカは冬を越すと雪解けとともに新芽を求めて動き始めます。
この時期、彼らが特に好んで食べるのが、キハダという広葉樹の若芽や樹皮です。
長い冬の間にエネルギーを消耗したエゾシカにとって、キハダは栄養を補給するための貴重な食料です。
増加するエゾシカはこのキハダを大量に食べ尽くし、森林の再生を妨げてしまいます。

一方で、ミヤマカラスアゲハは幼虫の時期にキハダを好んで食べます。
キハダの葉を主食とする幼虫にとって、この木は生存の鍵となる植物です。
しかし、エゾシカがキハダを過剰に食害することでミヤマカラスアゲハの幼虫が育つための食草が激減し、結果的に蝶の個体数が減少しているのです。
増加するエゾシカがキハダを食べ尽くすことでミヤマカラスアゲハの生息環境が悪化し、広葉樹林が衰退するという連鎖が進行しています。
このようにエゾシカとミヤマカラスアゲハは、キハダという植物を巡る競争により異なる方向へと運命を歩んでいます。

外敵のほとんどいない北海道で急速に増えているエゾシカ。
自然のバランスは非常に繊細で、ある種が増えれば他の種が生息しにくくなるという連鎖が起こります。
キハダという植物を中心に展開するエゾシカとミヤマカラスアゲハの物語は、私たちに自然界の複雑なつながりとその保護の必要性を強く訴えかけています。